アウトドア愛好家のデザイナー、Euijae Lee(イ・ウィジェ)が2011年に韓国で立ち上げたCAYL(ケイル)。クライミングウェアから始まったブランドは、現在ではハイキングやトレイルランニングまで領域を広げ、自然と街をシームレスにつなぐプロダクトを生み出しています。
そのCAYLを代表するバックパックが「Mari Roll Top」です。軽量なロールトップに、上下どちらからも開けられる大胆なフロントジッパー。左右非対称でありながら調和のとれた姿は、いまやブランドのシグネチャーになりました。
けれど、この形は最初から完成していたわけではありません。なぜロールトップになり、なぜジッパーは中央からずれたのか。約2年ぶりの入荷にあわせて、Leeさんに誕生の背景を聞きました。

NMG
「Mari Roll Top」は、どのように誕生したのでしょうか。
Lee
30リットルサイズのバックパックを新しく開発するにあたり、私たちは「まず機能を定義し、それに基づいて形を構成していく」というアプローチをとりました。
最初は、上下どちらからも開けられる止水ジッパーを備えつつ、上部はドローコードで開閉する仕様でした。大きな開口部でも扱いやすいよう、トップには小さな穴が自然に塞がる自己修復性を持つ薄手の生地を採用していたんです。ただ、その生地は繊維の組織がやや粗く、テストを重ねるなかで耐久性に課題が見つかりました。
そこで最終的に、よりタフで実用的なロールトップへ変更しました。さまざまな生地を実際に当てはめ、それぞれの弱点を一つずつ見つけて解決していく。そのプロセス自体が、とても楽しかったですね。


NMG
特徴的なフロントジッパーは、最初から構想に入っていたんですね。中央ではなく左側へずらしたのは、なぜですか。
Lee
まず、中央にジッパーを置く定番のデザインを避けたいという思いがありました。位置をあえてずらし、それに合わせてメッシュポケットの高さや傾きを検討しながら、非対称だけれど調和のとれたデザインを目指しました。
その結果、見た目の独創性だけでなく、メイン収納へのアクセスやポケットの使い方にも自由度が生まれました。背面やショルダーハーネスの長さも、実際にフィールドで使いながら調整していきました。

NMG
シンプルだからこそ、使うほど考え抜かれていると感じます。あえて入れなかった機能はありますか。
Lee
コンプレッション機能やウエストベルトはミニマルに抑え、背面フレームも省きました。代わりに取り外し可能な背面パッドを入れ、剛性を確保しています。機能を増やすのではなく、背負い心地と軽さのバランスが取れるところを探しました。


NMG
Leeさん自身は、どんな場面で使っていますか。パッキングのコツも教えてください。
Lee
天気の良い日の1泊ハイキングや日帰りハイキング、旅行でもよく使います。使う頻度が低く、軽いものから順に詰めるという基本は、ほかのバックパックと同じです。
ただし、奥行きいっぱいまで詰めると背中への圧迫感が出るので、少し余裕を残すのがおすすめです。そのほうが背負い心地がよく、見た目もスマートになります。必要なら「Stretch Pocket Hip Belt」で安定感を高めたり、底部のコードを追加収納として使ったりすることもできます。

機能を起点に形をつくり、フィールドでのテストを重ねて完成した「Mari Roll Top」。前編では、その誕生と独自のデザインに込められた考えを紐解きました。
後編では、このバックパックを手に取ってほしい人、完成後も続く改良への姿勢、近い容量を持つ「Juheul」との違い、そしてLeeさんが思い描く次のスタンダードについて聞きます。
NMG
ブランドのシグネチャーとも言える「Mari Roll Top」ですが、どんな人におすすめしたいですか。
Lee
デイハイキングや1泊程度の山行を通じて、UL(ウルトラライト)の世界へ一歩踏み出そうとしている方に使ってほしいですね。その人にとって、次の楽しみ方へ進むための良いガイド役となるバックパックになれば嬉しいです。


NMG
CAYLのバックパックには、容量の近いモデルとして「Juheul」もあります。2つには、どのような違いがありますか。
Lee
「Mari Roll Top」は使う人を選ばず、幅広い場面で活躍する、オープンで開放的な雰囲気のバックパックとして設計しています。中の空間を自由に使えるので、パッキングのスタイルや背負ったときの雰囲気が人によって異なる。それを見ているのも面白いですね。
一方の「Juheul」は収納スペースを細かく分け、ファストパッキングを想定してトルソー(背面長)を少し短めにしています。欲しい場所へ荷物を仕分け、すっきりと収めることができる。よりアグレッシブな山行スタイルに向くモデルです。自分がどのように山を楽しみたいかで選んでもらえたらと思います。
Mari
Juheul
NMG
「Mari Roll Top」は、これからも進化していくのでしょうか。
Lee
アウトドア製品に、完璧なものはないと思っています。リリースした後もフィールドテストを続け、改善できるところはないか、どうすればさらに良くなるかを考えています。
ただ「Mari Roll Top」は、シンプルで、山だけでなく旅や日常でも使いたくなることを大切にしているモデルです。その性格を変えるような大きな変更は、今のところ考えていません。
一方で、ポケットの素材や構造を見直したり、ショルダーハーネスや背面パネルに改良を加えたりする余地はあります。Mariらしさを保ちながら、さらに使いやすい次のバージョンにも挑戦してみたいですね。


NMG
これからのことについても伺います。Leeさんにとって、「良いバックパック」とはどのようなものでしょうか。
Lee
やはり、一番よく使うバックパックこそが「良いバックパック」なのだと思います。自然と手が伸び、どんな場面でも多用途に活躍してくれる。そんな相棒のような存在が、本当に優れたバックパックと言えるのではないでしょうか。
NMG
今後は、どのようなバックパックをつくりたいと考えていますか。
Lee
特定のシチュエーションを想定した、よりマニアックなバックパックを開発したいですね。そして、今はマニアックに見えるその仕様が、これからのスタンダードになっていく。そんな未来を先取りするプロダクトになれば面白いと思っています。
使う人の日常に自然となじむものをつくりながら、まだ一般的ではない山のスタイルにも目を向ける。CAYLはフィールドで得た実感を頼りに、次のスタンダードを探し続けています。

サイズはスタンダードとSMの2種類。スタンダードは約27–32L・背面長約470mm、SMは約26–30L・背面長約450mmです。ハリ感と防水性を備えたX-Pac、しなやかさと強靱さを備えたGrid/B-Grid、素材を組み合わせたMixから選べます。
2011年にイ・ウィジェが始動したソウル発のCAYL(ケイル)。登山やランに精通したデザイナーの経験が息づき、高機能素材による軽量性や対候性といった多彩な機能美と、ミニマルで洗練されたデザインを両立しています。「Climb As You Love」を掲げ、街でも山でも使える高い実用性が、現代の日常生活から過酷なフィールドまで、あらゆるシーンに柔軟に対応するアイテムを発表し続けています。
Writing: Osamu Ishii