FEATURE

名もなき山と、暮らす。ikkaku mosaic.が残す余白

X

Space & Memory
名もなき山と、暮らす。

木の表情を読み、自身の感覚を重ねながら「世界を記述する」。

第2回では、ikkaku mosaic.の山がどのように生まれていくのか、その制作について話を聞きました。

最終回では、そうして生まれた山が作り手の手を離れ、空間や人と出会った後について。光によって変わる表情、「名もなき山」に込められた意味、そして見る人それぞれの記憶について伺います。

Space & Memory

N:井出さん自身が「これはikkaku mosaic.らしい」と感じるのは、どんな時ですか?

I:部屋の中にぽつんと山があるっていう、あのちょっと不思議な景色ですかね。
制作自体、あらかじめきっちり準備するんじゃなくて、ライブ感を楽しんでいます。狙って作れないからこそ、野生っぽい一度きりの形ができる。
そんなふうに生まれた木の山が誰かの暮らしに溶け込んだ時、良い意味で「些細な違和感」としてそこにいてくれる。
ただの置物じゃない、そういう静かな存在感が出せた時は「ikkaku mosaic.らしいな」って思います。

生活空間にぽつんと置かれたikkaku mosaic.の作品

光がつくる表情

N:その存在感には、光もかなり関係していますよね。

I:かなり意識しています。
部屋に置いた時に、木そのものの手触りや、光が当たった時の陰影の深さが、より山っぽさを生んでくれるんです。
光の差し込む時間帯だったり、部屋の照明の角度だったり。それによって、山の表情が刻々と変わっていく。
一人の山好きとして、「見ていたくなる佇まい」のために、光と影のバランスは一番コントロールしている部分です。

自然光で陰影が浮かぶikkaku mosaic.の木の山

N:作品が置かれる空間については、どう考えていますか?

I:部屋に置いた時に、「自然で、かつ些細な違和感」になってほしいと思っています。
ふと目に入った時に、そこだけ山の清々しい空気や、自然のエネルギーが少しだけ漏れ出しているような、心地いい異物感を作りたいんです。
部屋のイッカクに置かれた小さな山によって、日常にちょっとした面白い変化や気付きが生まれたら嬉しいですね。ニンマリしちゃいます。笑

棚の中で他のものと静かに共存するikkaku mosaic.の作品

名もなき山

N:作品には特定の山の名前を付けず、「名もなき山」として制作していますよね。その理由を教えてください。

I:地球の変動によって生まれた山々は、本来ただそこに在るだけの存在です。
人間の都合や歴史、信仰によって、後から名前という記号が与えられたわけですが、僕が作る山にはそうした背景がありません。
木から立ち現れた、ただそこにある姿。だからこそ、名もなき山なのです。
作品に余計な意味をまとわせないことで、見る人が自分だけの感覚で向き合える「余白」が生まれると考えています。

名もなき山の稜線を大きく捉えたディテール

N:実際に、作品を見た方から「これは○○に見える」と言われることもありますか?

I:ありますね。
そう言われる度に、その想像力に感心してしまいます。「あ、この角度、たしかに!」って。笑
中には「ここは餓鬼のテン場の先っちょっぽいねー」という方もいました。猛者ですよね。笑
同時に、それは少し俯瞰してみると「山に見えている」ことが前提になるので、嬉しさと、正直ホッとすることもありますね。

それぞれの記憶の山

N:展示やイベントなどで、人と直接会話することは制作にも影響しますか?

I:展示から帰る時は、いつも以上に作りたいという欲が増しています。これはもうボンノーだと思っていますが。笑
展示に来てくれた方と直接話していると、「名もなき山」を前にして、それぞれの記憶の山や体験を重ねて嬉しそうに話してくれるんです。
工房ではひとりストイックに作っていますけど、こうした生の声を聞ける場所があると、次の制作の登山口に向かう足取りも軽い気がします。

展示会場で作品とともに写る人々

N:完成した瞬間と、人の手に渡った瞬間では、どちらの方が喜びは大きいですか?

I:やはり人の手に渡った時は、とびきりの嬉しさと温かい喜びがあります。
制作時の喜びがあるとしたら、木から山の稜線が出てきた時ですね。ニヤけていると思います。笑
ほとんどの作品が「ここまでかな?」というタイミングでおしまいにしていて、「おお、完璧!」と喜びを実感して完成とすることは、そんなに多くないかもしれません。

N:完成させるというより、「ここで手を止める」と決める感覚に近いんですね。

I:そうですね。それが近いと思います。

本や日用品の間に置かれたikkaku mosaic.の作品

良いものには、確かな気配がある

N:最後に、井出さんにとって「良いもの」とは何でしょうか?

I:時代が変わり、どれだけ時間が経っても、そのモノから漂う空気や存在感が決して色褪せないこと。
最新トレンドの商品や、異常なレビューの高さよりも、そこに宿る、作り手の「確かな気配」を感じ取れるもの。
それが僕にとっての「良いもの」の条件です。

Nicetime's Note

特定の山を作らず、名前も付けない。その「決めすぎない」姿勢が、ikkaku mosaic.の作品に大きな余白を残しているように感じます。
作り手の手を離れた山は、光によって表情を変え、置かれた空間に溶け込みながら、見る人それぞれの記憶と結びついていく。
名もなき山だからこそ、誰かにとっての山になる。部屋のイッカクに置かれた小さな山は、その人の暮らしの中で、また新しい風景になっていくのだと思います。

ikkaku mosaic. ロゴ

ブランドプロフィール

山梨県北杜市を拠点に、山をモチーフにした木製オブジェやアクセサリーを制作するikkaku mosaic.。木の節や年輪、瘤など素材そのものの表情を生かしながら、その瞬間の感覚を重ね、一点ごとに異なる「名もなき山」を生み出しています。

Text: Koichi Tanaka / NMG